第8話 鈴鹿スーパーツーリングカー500kmレース
2008/02/01
カテゴリ: GroupAの残像
ライター: 御堀直嗣
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鈴鹿スーパーツーリングカー500kmレース
ブレーキ対策の行方
第一戦SUGOでの暑さと激戦にブレーキトラブルに見舞われたGT-R
各チームはそれぞれにブレーキ冷却対策を施し
万全を期してこの鈴鹿に乗り込んだが・・・・・
Text: Naotsugu Mihori
Photo: Yoshio Moriyama
By courtesy of GT-R Magazine Vol.007, Kotsu-Times Sha, 1996.
Photo: Yoshio Moriyama
By courtesy of GT-R Magazine Vol.007, Kotsu-Times Sha, 1996.
それぞれのブレーキ冷却対策白星を上げるのは果たして・・・
スカイラインGT-RがグループA参戦2シリーズ目を迎え、台数が増えたことで、有力チームによる戦いが熾烈さを増した。そして開幕戦のSUGOでは思わぬブレーキトラブルが発生した。その結果、AXIAスカイラインとタイサン・クレッパーGT-Rはリタイヤ、リ―ボックスカイラインはエンジンブレーキを駆使することでかろうじて2位となり、優勝のカルソニックもブレーキの効きが甘くなるという薄氷の思いでゴールを迎えたのであった。
第2戦の鈴鹿は、それから約2ヵ月後、この問にニスモではトラブルの原因究明を行ない、ブレーキキャリパーのオイルシールが熱の影響で劣化し、そこからブレーキ液が漏れ出したことを突き止めた。さっそく対策したオイルシールを用意し、各チームに供給するという対応を行なった。しかし、7月初旬の暑い鈴鹿を前に、スカイラインGT-Rを走らせる各チームは、さらに個別のブレーキ冷却対策を施して万全を期したのであった。
最も大掛かりな対策をしてきたのはタイサン・クレッパーGT-Rである。チームオーナーであるタイサンの製品のポンプを活用し、水冷式ブレーキを作ってきたのだ。車室内のドライビングシート後ろに30リッターの水タンクを新たに搭載し、その水を冷却用として使う。作動は、ドライバーがブレーキペダルを踏むとポンプによって冷却水がブレーキローターへ送られ、ローターに直接噴射されて冷やすというもの。冷却水の搭載によって車両重量が20kgほど増加するが、前回SUGOでリタイヤしているだけに、ブレーキ冷却対策に対しては深刻だ。冷却水は当然使い捨て状態となるので、ピットインして給油する際に冷却水も補充することになる。
同じくSUGOでリタイヤしているAXIAスカイラインは、フロントフェンダー内にあるエンジン用オイルクーラーの取り付け位置をリヤデフの後ろへ移動させ、オイルクーラーが無くなったフロントフェンダー内側の空間を利用してエアダクトを拡大した。リヤバンパー下には、単体の床下後方へ移されたオイルクーラーのエア抜き用ダクトが見えていた。
リーボックスカイラインは、リヤブレーキ用のエアダクトを改造することで冷却効果を上げている。これら3台に対し、ニスモの対策オイルシールを採用するのみで姿を現したのがカルソニックスカイラインだった。SUGOでは唯一最後までブレーキを持たせたチーム。そして、「ドライバーがブレーキをいたわる運転をしてくれるから大丈夫」と言う。
だが、今回の鈴鹿は暑さだけでなくレース距離が通常の1.6倍以上の500kmと長い。果たして、各チームのブレーキ冷却対策効果はどのように出るのであろうか。あるいはカルソニックスカイラインのようにドライバーの腕だけで乗り切れてしまうのであろうか。

AXIAスカイラインは、オイルクーラーの取り付け位置の変更とエアダクトの拡大でブレーキ対策を施した。
一方、リーボックスカイラインは予選用タイヤを使って1回のみタイムアタックを行なう。ドライブするのはナンバーワンドライバーの長谷見昌弘。そしてベストタイムは、2分14秒871であった。事前テストの状況からすると、2分13秒台の可能性があると見られていたから、やはり気温と路面温度の高さが好タイムを阻むことになったようだ。
だが、午後になってもなかなか温度は下がらなかった。午後3時半から始められた2回目の予選が30分程過ぎて、ようやくカルソニックスカイラインが動きだす。予選用タイヤを装着した星野一義がタイムアタックに出たのである。そして午前に長谷見が記録したタイムを0.6秒縮める2分14秒262を出した。まだ、同じく午前中のタイムアタックを見合わせていたタイサン・クレッパーGT-Rも高橋健二が乗って2分16秒643を出し、このセッションで星野のタイムに続いた。
その様子を見て、リーボックスカイラインの長谷見もタイムアタックの準備を始める。2セット目の予選用タイヤを装着した長谷見のスカイラインGT-Rがコースイン。ところが、クリアラップがとれず、2分16秒040に止まることになった。
そこで今度は、星野がポールポジションを確定的なものにするため2セット目の予選用タイヤでタイムアタックを行なった。しかしこれもクリアラップをとることができず、自己のタイムを更新できずに終わった。

タイサン・クレッパーGT-Rはタイサン製品のポンプを活用し、水冷式ブレーキを採用。
ライバル星野のカルソニックスカイラインが2セット目の予選タイヤでタイム更新ができなかったのを見て、長谷見はおもむろにコースインしていった。渾身のタイムアタックを行なう長谷見ではあったが、そのタイムは2分14秒435。0.2秒およばず、カルソニックスカイラインのポールポジションがここで決定。リーボックスカイラインは予選2番手のスターティンググリットから決勝レースに臨むことになった。
予選3番手はタイサン・クレッパーGT-Rとなり、4番手にAXIAスカイラインとなった。ところが、予選後の車両検査でAXIAスカイラインのボディ幅が車両規定より広いことが発覚。AXIAスカイラインの予選タイムは無効となる。ただし、スターティンググリット最後尾からの決勝参加は許されることとなった。
このレースでスカイラインGT-Rと同じクラスを戦うマシンは他にFETフォードシエラのみとなり、そのベストタイムは2分19秒536と、スカイラインGT-Rとの速さの違いは歴然であった。そして、フォードシエラRS600はついにこの1台のみの参加となったのである。
一騎討ちの様相を呈するカルソニックとリーボックスカイライン
しかしカルソニックはトラブルを抱え初のリタイヤを喫してしまう。

予選日より気温が下がった決勝日だが、ブレーキに対する不安はまだ予断を許さない。
決勝日は薄曇りの天候となった。気温は25℃。少なくともこれでブレーキの心配は軽減されることになった。レース距離の長さや、レース内容によってはブレーキが酷使される可能性があり、ブレーキに対する不安はまだ予断を許さないが、少なくとも炎天下よりはましだ。
スタートは、ポールポジションのカルソニックスカイラインがそのまま先頭に立ち、これにリーボックスカイラインが続く状況となったが、リーボックスカイラインは、1周目の130Rで早くも仕掛け、カルソニックスカイラインを抜いたのであった。そしてこの2台がガソリンが満タンに積まれたこの段階で2分18秒台というハイペースで走り、かつ激しく戦ったのである。
2番手に落ちたカルソニックスカイラインの星野は、リーボックスカイラインの長谷見をコーナーで攻め立てたが、がっちりと脇を締めた長谷見の走りの前へ出るきっかけがなかなかつかめないでいた。しかも、長谷見のリーボックスカイラインはコーナーからの立ち上がり加速でカルソニックスカイラインに勝っていたから、星野にとっては苦しい戦いが続くことになった。
レースが1/3ほど過ぎたところで、ようやく星野にチャンスが巡ってきた。シケインの進入でついにリーボックスカイラインを捕らえ、前へ出ることに成功したのだ。鈴鹿のシケインは、このレースを前に改修され、よりカーブのきついレイアウトとなった。また、変更間もないため、各ドライバーはそのブレーキングポイントの把握にやや手間取った。星野自身「走り込めばまだタイムは縮められる」とレース前に語っていた。その走り込みが決勝レース中にできたことで、シケインでの追い越しをものにしたのだろう。
ところが、先頭に立った星野の目の前に周回遅れのマシン郡が現れる。カルソニックスカイラインとリーボックスカイラインがそれをかきわけながらメインストレートを下っていった。
そして、1コーナーのインを手に入れたのは、長谷見のリーボックスカイラインだった。長谷見はマシンの内側タイヤをコース外へ落としながら、カルソニックスカイラインを抜き去ったのであった。
その直後、カルソニックスカイラインが予定のピットインを行なう。ここで、「エンジンの調子がおかしい」と星野は叫び、メカニックたちがマシンを取り囲んだ。インタークーラーのホースが外れていたのだ。そのためリーボックスカイラインに比べ加速が鈍かったのだ。修理に数周を必要とした。これでカルソニックスカイラインの勝ちはほぼ消えた。しかも、追い討ちをかけるようにレース終盤になってカルソニックスカイラインのリヤサスペンションアームが破損。カルソニックスカイラインは、昨年のデビュー以来初めてのリタイヤを経験する事になった。
リーボックスカイラインは、カルソニックスカイラインのトラブルで余裕を持つことができた。そのためブレーキも温存でき、トラブルフリーで優勝を手にしたのであった。レース後、長谷見は次のように語っている。
「ブレーキを冷やすためにも、最初からトップに立っておきたかった。カルソニックにトラブルが出たので後半は楽だったが、前半のペースが最後まで続いていたらブレーキがもたなかったんじゃないかな。それから、今回からタイヤ外径が大きくなったことが、ポテンシャルアップにつながった」
このコメントを聞くと、予選を3セットすべて予選用タイヤで臨んだ理由がうなずける。やはりブレーキは心配だったのだ。そしてマシンに対策を施すとともに、レースの作戦も入念に計算した長谷見。ベテランの勝利への執念をまざまざと見せたレースだったのである。
この優勝は、昨年の鈴鹿以来のこと。験の良い鈴鹿で2年連続優勝を果たすことになった。そして、今年はカルソニックスカイラインとリーボックスカイラインが、まずは1勝1敗の互角の力を発揮し、これからのシーズンを戦うことになったのであった。



