1991年9月1日
第4戦 仙台ハイランド
第6回ハイランドグループA300km選手権レース大会

苦しい勝利プロの執念

台風で洗い流されたレコードラインはラバーグリップが奪われトラブルに見舞われたリーボックはカルソニックの予選タイムを破れなかった
Text: Naotsugu Mihori
Photo: Yoshio Moriyama
By courtesy of GT-R Magazine Vol.009, Kotsu-Times Sha, 1996.



ワインディングレースの一発予選リーボックにトラブル発生
カルソニックスカイラインは、鈴鹿と、筑波、ふたつのレースをこの年すでに落としている。「トラブルというのは、出る時には出てしまうもの」と、星野一義は言う。
しかし、だからといって、抑えて走ればトラブルが防げるというわけではなく、またそれではレースを戦ったことにはならない。言うまでもなく、星野は、「とにかく目一杯いく。抑えて行ってもしょうがないからね」と答えた。

GroupA
 これまでに2勝をあげているリーボックスカイラインは、カルソニックスカイラインに対しシリーズポイントで46点の差をつけていた。このポイントの差から単純計算すると、今回の仙台を含め残り3レースすべてを2位で終えてもチャンピオンが決まるリーボックスカイラインにすれば、何も無理をする必要はない。長谷見昌弘は、「ポイント争いを考えてコンスタントに行きますよ」とゆとりのあるコメントを残している。
 だが、レースは計算通りにはいかないものだ。リーボックスカイラインの背後に迫り、そのポジションを脅かしそうとしたのはタイサンKLEPPER・GTRである。



カルソニックスカイライン
 土曜日に行なわれるはずの予選は、日本列島上陸した台風の影響を受けて中止となった。そして決勝当日朝のウォーミングアップ走行の時間帯を延長するかたちで。一発勝負の予選が行なわれた。台風一過。日曜日は打って変わって好天に恵まれた。路面温度はすでに40度近く上がっていた。
 さっそく予選用タイヤを装着してコースに出たのは、長谷見リーボックスカイラインだった。ところが、タイムアタック中にターボチャージャーのインテーク側パイプのつなぎ目が外れるトラブルが発生し、ブースト圧が上がらなくなって急遽ピットインし、修理しなければならない事態となった。これで予選時間の多くを失い、残すところ10分程となってようやくコースインを果たすことになる。今度は長谷見のパートナーであるアンダース・オロフソンがタイムアタックを行なうことになった。

 その間カルソニックスカイラインが果敢にタイムアタックを行なっていたが、最初のトライでのタイムは1分45秒099と、前年に星野が出した1分43秒739を上回ることはできずに終わっていた。前日の激しい雨でレコードライン上のラバーグリップが失われていたからだろうか。
 そして、リーボックスカイラインがまだピットに止まっている最中にタイサンKLEPPER・GTRがカルソニックスカイラインに続く1分46秒367を出して2番手につけた。その後、星野は再度タイムアタックに出たが、1コーナーでゆっくり走行しているマシンに引っ掛かり、タイムアタックに断念することになる。
 ラスト10分。リーボックスカイラインのタイムアタックが再開された。残り時間は少なく、予選に出走し、セカンドドライバーとしての基準タイムをクリアしておかなければならないオロフソンに、トライは任された。そして最終ラップに1分45秒978を捻り出すが、カルソニックスカイラインのタイムには及ばず。その間にカルソニックスカイラインは自己のタイムを短縮する1分44秒804を出していた。しかし、それでもコースレコード更新とはなっていない。

 予選結果は、カルソニックスカイラインがポールポジションを獲得。これで、開幕4連続ポールシッターとなった。カルソニックスカイラインの速さに揺るぎはない。予選2番手は、突然のトラブルを克服したリーボックスカイラインで、3番手にタイサンKLEPPER・GTRがつけた。予選4番手は、前回の筑波から参戦を開始したザウルスチャンプGT-Rだ。先輩格のAXIAスカイラインを退けての予選結果である。
 そして5番手にAXIAスカイラインとなり、6番手は唯一の参加となるフォードシエラRS500の、FETシエラであった。GT-R勢5番手のAXIAが1分47秒9であるのに対し、FETシエラはさらに1秒以上下回る1分49秒2が精一杯というところ。アップダウンが続く仙台ハイランドのコースで、GT-Rに対するシエラの苦しさは如何ともし難いところへきていた。
 シリーズの展開を少しでも好転させようと、カルソニックスカイラインはこの1戦にかけてきた。そこで、負担の大きいフロントブレーキへの対策として、フロントフェンダー内にあったオイルクーラーを車体後部の床下へ移動し、フロントブレーキ冷却用エアダクトを新設していた。昨年の仙台でのレースは雨の中で行なわれており、残暑が厳しいこの時期の予防策として万全を期すため、カルソニックスカイラインは手を打って来たのであった。
 
30秒のマージンと周回遅れがカルソニックの命を救う
 ローリングスタートから猛烈にダッシュして行なったのは、ポールポジションのカルソニックスカイラインだ。しかも1周で2番手リーボックスカイラインに1.6秒の差をつけてしまう圧倒的走りである。
「重くて曲がりにくいツーリングカーをコーナーで速く走らせるため」と星野が言う、縁石跨ぎ走法が随所で披露される。メカニックからは、
「壊れるからもっとおとなしく走って欲しい」と言われてたようだが、星野は、「マシンを壊すような負担はかけてない」と言い、豪快な走りは続く。
 星野の、マシンをいたわる走りの様子は、タイヤエンジニアに聞くと分かる。
星野さんのタイヤはもっとも磨耗が少ない」と言うはずだ。

GroupAの残像
したがって星野は1ランク柔らかいタイヤでも耐久性に心配がなく、その結果、さらに速いラップタイムで走ることができるようになるわけである。それが星野走りのアドバンテージとなっている。
 いずれにしても、星野の速さは止まるところを知らず、10周を終えた段階で、2番手に対し10秒以上先行してしまったのであった。
 2番手はリーボックスカイライン。その背後にタイサンKLEPPER・GTRが張り付いていた。この2台が壮絶な争いを展開する。なかなかペースの上がらないリーボックスカイラインに対し、タイサンKLEPPER・GTRは背後からしきりに攻め立てた。だが、仙台のコースではよほどのアドバンテージが無い限り相手を抜くことはできない。せいぜい横に並べるのが精一杯というところ。それでもタイサンKLEPPER・GTRは、リーボックスカイラインに執拗に食らいついていった。

TAISAN KLEPPER GT-R
 リーボックスカイラインに乗るのはエースの長谷見、タイサンKLEPPER・GTRはセカンドドライバーの土屋圭市だ。ベテラン長谷見はバックミラーをよく確認しながら、絶妙の走行ラインで防戦に回っている。土屋は、ドリフト走行はお手のもの。ここではタイヤの摩耗への心配はさておき、とにかく獲物を捕らえるべく攻めに攻め立てる。走行ラインが乱れようともアクセルは離さないとでも言うような執念の走りだ。
 そしてついに、コースレイアウト上の最も高い位置にあるスプーンカーブの進入で、タイサンKLEPPER・GTRがリーボックスカイラインの鼻先を捕らえ前に出たのであった。と言っても、走行ライン取りは苦しい。それを知るリーボックスカイラインはインを押える走りで逆転に出た。それでタイサンKLEPPER・GTRは完全に行き場を失ったのであった。アスファルトのコースをはみ出しダートへ逃げるタイサンKLEPPER・GTR。

トラブルを抱え、30秒のマージンが縮められていく。
それでもトップを守り切ったカルソニックは
勝利の女神に操られ、
残る2戦、どんな戦いが待ち受けているのだろうか


 この攻防で、タイサンKLEPPER・GTRはリーボックスカイラインに離されてしまうのであった。しかし、ここまでの競り合いは手に汗握る実に見応えのあるもので、GT-R同士の戦いの神髄を見せられた思いであった。またタイサンKLEPPER・GTRの仕上がりの良さを示す材料とも言えた。
 一方、リーボックスカイラインにしてみれば、シリーズチャンピオン獲得へ向けて強敵が現れたことになる。少なくとも今回はカルソニックスカイラインがダントツの走りを見せており、万が一にもリーボックスカイラインがレースを落とすような事態となれば、シリーズの行方は分からなくなりかねない。
 しかし、タイサンKLEPPER・GTRの追撃を凌いだリーボックスカイラインに、今度は幸運の女神が微笑み掛けようとしていた。給油とドライバー交替を終えたカルソニックスカイラインのペースが落ち始めたのである。実は、まだ星野が乗っている間からシフトチェンジの際にトランスミッションからオイルが漏れ出し、床下から煙を吐いていたのだ。それがコックピットにも入り込みイヤな臭いがしていたと言う。

カルソニック・スカイライン
 カルソニックスカイラインとリーボックスカイラインの間にあった30秒ほどの差が、20秒に、そして15秒へと削られていった。ただしその道程はなかなか厳しかったのも事実である。というのは、周回遅れのマシンをかわしながらカルソニックスカイラインを追うことになるリーボックスカイラインにとって、仙台のコースはあまりにも追い越しタイミングが取りにくかったからである。
 逆にそれがカルソニックスカイラインにとっては幸いしたと言える。当初のペースからすれば3~4秒も遅いラップタイムでの走行となったカルソニックスカイラインだったが結局リーボックスカイラインに追い越しのチャンスを与えること無くゴールを迎えることができたのであった。15秒のリードを保ってチェッカーフラッグを受けたカルソニックスカイラインは、開幕戦以来の2勝目を手に入れることになった。

 これで、カルソニックスカイラインとリーボックスカイラインの勝率は、2勝2敗の5分となった。しかし、優勝できずに終わったレースで必ず2位に入賞してきたリーボックスカイラインに対し、カルソニックスカイラインはシリーズポイントでまだ36点離されている。リーボックスカイラインの着実さが、今年は特に目に着く。
 次のシリーズ第5戦は、各チームともグループAでは初めて走ることになるオートポリスでのレースだ。まったく過去のデータを持たないだけに、どのような展開になるかを読むのは難しい。しかしいずれにしても、カルソニックスカイラインにとっては優勝するしかないレースがこれからも続く。
「最後までベストを尽くす。チームの総合力で勝負を掛けて行く」
 タイトル防衛には相変わらず苦しい状況であることに変わりはないが、星野はレース後にそう語り、プロとしての執念をみせたのであった。