1990年5月19日~20日 第2戦 スポーツランドSUGO 「1990 SUGOグループA300km選手権レース」

雨模様の予選でスカイラインGT-Rは、4WDのメリットを遺憾なく発揮
2WDのシエラRS500に3秒以上の差をつけてしまう
そこには「4WDクラス」という別のカテゴリーが出現してしまった
またしても、決勝では2周目から青と白の一騎打ちが開始された


Text: Naotsugu Mihori
Photo: Yoshio Moriyama
By courtesy of GT-R Magazine Vol.001, Kotsu-Times Sha, 1994.




オロフソンを先に乗せた長谷見の決勝戦略
 そのデビュー戦となった開幕戦を1-2フィニッシュという完全勝利で飾ったR32スカイラインGT-Rではあったが、じつはミッショントラブルを抱えた薄氷を踏む思いの勝利だったのである。
 デビュー・ウィンというターゲットを掲げて開発が進められてきたR32GT-Rは、その目標達成のために入念なテストを繰り返してきたはずであった。1989年の5月末に、まず走るという確認のためのテストを追浜にあるテストコースで行った後、純白のGT-Rは富士スピードウェイに持ち込まれ、サーキットでのシェイクダウンテストが開始されたのである。このときのドライバーは、高橋健二。
 さらに、追浜のテストコースで4回、富士で4回、SUGOで2回、西仙台(現在は仙台)、筑波、西日本(現在はMINE)、エビスで各1回のテストを積み重ね、合計15回ものテストをこなし、万全の構えで迎えたデビュー戦だったのである。この間のテストには、先の高橋に加え、長谷見昌弘星野一義都平健二鈴木利男、A・オロフソンら、日産の主だったドライバーすべてがかかわっていた。

 それにもかかわらず、西日本の決勝レースではミッショントラブルが発生した。じつは、実戦ともなるとテストのときよりはるかに過酷な走りになるのだということを、日産の開発陣はここで身をもって体験することになったのである。そのミッショントラブルは、ある意味で構造上の問題でもあり、部品の強化策は当然のこととして行われたが、常に注意を必要とする部品であることに変わりはなかった。だが、それならば注意深く点検し、定期的に部品を交換していけばいいだけの話である。そうした現場でのノウハウが実戦参加によって積み重ねられ、最強のレーシングマシンへと信頼性を高めていくことになるのである。
 開幕戦の後、約2ヶ月のインターバルを経て、全日本ツーリングカー選手権第2戦はスポーツランドSUGOで開催された。
 予選が行われた土曜日は、低気圧の接近により雨模様となった。SUGOのコースは雨水で覆われ、GT-Rの4WDとしての機能が遺憾なく発揮されることになった。すでに、西日本でGT-Rの走りを目の当たりにしたライバルたちは、GT-Rは別のクラスという認識を持ちはじめていた。それほどGT-Rの速さは際立っていたのである。それがウェットコンディションの下で、さらに決定的なものとなった。

 ポールポジション争いは、2台のGT-R、カルソニック・スカイラインとリーボック・スカイラインの間で展開される。まず、第1回目の予選でリーボック・スカイライン長谷見昌弘が1分40秒185のトップタイムを出した。星野一義の乗るカルソニック・スカイラインは1分40秒825止まりで、長谷見は0.7秒上回っている。開幕戦でタイヤに泣いたが、ウェットコンディションの中ではドライバーの頑張りがはっきりと出て、長谷見も満足の様子だ。

 GT-Rが採用したトルクスプリット方式の電子制御4WDとは、基本的にはFRでリヤタイヤが駆動を行うが、リヤタイヤのスリップ量が増した場合にはフロントタイヤへ駆動力を配分する。また、路面の摩擦係数が小さくなったような場合にも適切にフロントタイヤへ駆動力を配分し、操縦安定性を高めるという凝ったシステムである。そのため、あらゆる路面条件において、弱アンダーステアから弱オーバーステア特性を持ち、アクセルオンをした際には、通常の4WDのように走行ラインが膨らんでいかず、コーナーのRに沿って走ることができるという利点がある。
 このGT-Rの開発に当たった日産自動車の石田宣之と山洞博司の共著による「GT-Rレース仕様車の技術開発(グランプリ出版)」の中で著者は、『ポルシェ959が採用しているシステムと同等のシステムであるという触れ込みであったが、正直なところ、試乗するまではあまり期待をしていなかった。・・・中略・・・ところが、この試作車の操縦性には本当に驚かされた。同時に試乗を行った2WDの車両ではむずかしいドリフトコントロールが、アクセルワークだけでほとんど舵の修正なしに行えてしまったからである』と、電子制御トルクスプリット4WD導入のいきさつを回想している。
 また同著では、事前に行われた他車の評価の中で『土砂降りの雨の中をポルシェ959で伊藤主管と270km/hで走ったときは、そのスピードにビビるものがあったが、不思議と乗っていて怖い感じがしなかった』とも述べている。

 グループA仕様のGT-Rでは、前後のタイヤへのトルク配分は固定となっている。ただし、そのトルク配分の割合は4段階のダイヤルスイッチで変更できるようになっていた。しかしながら、基本の仕様は前後50対50の配分で決まり、開発当初の予想よりフロントタイヤへのトルク配分が多くなる結果となっていた。その方がコーナー立ち上がりの加速で有利であるとの結論を得たからである。
 そして、星野あたりはこのトルク配分を変更することはほとんどなく、逆に、ドライバーがそのトルク配分での走りにあわせていったほうがラップタイムが速かったのである。ただし、ターンインに際しては、フロントタイヤへのトルク配分をカットする制御がなされている。コーナーへのアプローチにおけるアンダーステアの発生を解消するためである。

 その、4WDであるがゆえの安定した走りが、この雨のSUGOでの予選でラップタイムに直接結びつき、我々の目の前に提示されたのである。
 予選を走り終えた星野は、
「4WDだからすごく乗りやすい。疲れないし、ウェットの時は600psを4本のタイヤに分配するからトラクションがきれいにかかり、楽に走って行ける」と語った。
 2回目の予選でその星野はポールポジションを奪回すべく再度タイムアタックに出たが、雨の降りは安定せず、時に激しくなり、1回目よりタイムを縮めたものの、長谷見を上回ることはできなかった。また、長谷見もその2回目の予選でタイムアップをはかっており、最終的に1分40秒176まで詰めた。予選2番手の星野とは0.243差である。
 予選3番手となったフォード・シエラRS500は、土屋圭市が予選を闘い、ベストラップタイムは1分43秒551。長谷見との差は3秒375である。土屋は、
「どうしてもウェットだと4WDが有利だね。明日のレースはシエラの中でブッチ切りを狙いますよ。スカイラインはペースカーだと思って気にしない」
 と話した。

 あけて決勝日は、青空が広がった。もちろんコースコンディションはドライとなる。そして、朝のフリー走行では当然のようにカルソニック・スカイラインがトップタイムをマークしたのであった。しかも星野が出したそのタイムは、唯一1分30秒を切る1分29秒489。前日の予選でポールポジションを逃した悔しさを「これがGT-Rの実力だ」とばかりに、このセッションにぶつけたような圧倒的速さであった。
 一方、ポールポジションのリーボック・スカイラインはこのセッション、1分30秒094。続くシエラは、1分31秒台で走った。
 コースを1周するローリングが開始され、そしてレースがはじまる。
 トップは、ポールポジションからのスタートのリーボック・スカイライン。そのドライバーは、アンダース・オロフソンだ。通常、チームのナンバーワンドライバーがスタートドライバーとなってレースを組み立てていくパターンが多いのだが、朝のフリー走行の結果を見たリーボック・スカイラインはセカンドドライバーであるオロフソンをスタートドライバーとする変則的な作戦を採用した。

 その意図するところは、星野の乗るカルソニック・スカイラインの速さは如何ともしがたいのだから、レース前半は何とか大きくリードされない範囲で追いかけ、何が起こるか分からないピットストップでの万が一に期待をし、かつ後半ナンバーワンドライバーである長谷見が、カルソニック・スカイラインのナンバーツーである鈴木利男にプレッシャーをかけていくことで、逆転のチャンスを探そうというのである。
 スタート後、1周目はトップを走ったリーボック・スカイラインだが、2周目に入り、その1コーナーでカルソニック・スカイラインの星野がズバッとインを差してトップを奪い取る。その後は、朝のフリー走行で見せた1分29秒~30秒の快調なペースで走り、リードを広げていった。リーボック・スカイラインのペースは1分31秒台であり、とてもついて行ける速さではなかった。その後方では、シエラ同士の熾烈な戦いが展開されていた。しかし、年を追うごとにパワーを上げてきたシエラは、その代償として耐久性を犠牲にしてきていた。
 トラブルを出し、とてもGT-Rの敵とはなりえなかった。

 レースの中盤、注目のピットインがはじまる。まず、カルソニック・スカイラインから20秒遅れで走っていたリーボック・スカイラインがピットに入り、給油とドライバー交替、そしてタイヤ交換を行う。一連の作業は26秒で終わり、長谷見がドライブするリーボック・スカイラインがピットアウト。
 続いてカルソニック・スカイラインがピットに入ってくる。同じようにガソリン給油とドライバー交替、そしてタイヤ交換を行ってピットを後にするが、ここでは順位の逆転は起こらなかった。
 結局、長谷見の思惑は果たせずに終わる。レース後半を任されたカルソニック・スカイラインの鈴木利男は、星野と変わらぬ安定した速さでレースを締めくくり、リーボック・スカイラインに対しさらにリードを広げ、30秒近い差でゴールのチェッカーフラッグを受けたのであった。また、3位のシエラは、2台のGT-Rから1周遅れでレースを終えるのである。